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【講評】新井英樹(漫画家)/「第1回古書みつけノンフィクション賞」最終選考

物語として表現をする際に、登場する人間をどれだけ大事に扱っているか書き込んでいるかによって、主人公が生きる場・社会・世界が見えてくるし、主人公がそれらをどう見ているか・見られているかが浮き彫りになっていく。

自分が生業にしてる漫画に限らず小説・ドラマ・映画に対しても掲げるテーマや社会的な意義よりも、描かれる人物の生き方・息遣い・体温に触れた!と思えることが重要で、なにより他者である脇の人物の描写こそ想像力の賜物、書き手の創造の源泉だとも思ってます。

個人的に……テーマや意義が主体の物語はキャラがそのための役割セリフを当てられ過ぎて作者の操り人形になって、その大半を忘れちゃうことが多い。でも、いいキャラだけは記憶に残るんですよ。
ただ意図された難しいことも、何かの折に血肉になってたことがわかる瞬間があるととんでもなく嬉しいんですけどね。

これまでは誰かが表現したものを「審査」するなんて……って立場でいたんだけど、今回は実在のいいキャラ・友人の中村京子さんからの声かけで「断れません!」となっての審査?読書となりました笑。ゆるい!と思われたならすみません。

そんな偏った目線で読ませてもらったのがこの最終選考4作、
自身の人生の実体験ベースの文章でよかった!と思わされる作品群でした。

「気がつけば浅草最後の映写になっていた。」荒島晃宏

最終選考の4作中、最もノンフィクションらしい形を取りながら自身の当時の思い入れの乗せ方にこちらまで乗せられて一気に読ませてもらった。

自身を主人公にした記憶記録記述に作者の感情が乗せられていく様が、作者が意図してか意図せずにかのキャラ表現になっていることも面白い!

「気がつけば無職になっていた。」薫

文章表現や技術の高さに驚く!心蝕まれていく主人公に読み手まで一緒に壊れていく感じを体感。狂気混じりの切実で滑稽な笑いをどう扱えばいいのかと揺さぶられる面白さ!表現者と表現されたものの距離が冷静に取れてる……。

古書みつけ「文学賞」なら、これです!

「気がつけば三十九年間無職だった。」難波文子

作者自身のキャラ度の高さに圧倒された。好き!

手書きの原稿用紙での投稿も含めて、作者と作品中の主人公の距離感に目眩すら覚えた。読んでる間、訳のわからない笑いが収まらず……。

これ、たぶん「表現したい」「伝えたい」って根本の衝動に嬉しさを感じさせられたんだと思います!

「気がつけば生保レディになっていた。」忍足みかん

なにより登場人物たちのキャラの体温が伝わってきました!

実在のモデルを考慮した上で本心で書く、書けるか?部分の押し引きも推し量りまでも楽しめる。いまを生きる心優しき人たちの弱さと、それでも自分は善人でありたいという人間の普遍的なテーマまで垣間見ることができました。読後感もいい。暖かみと寛容で包み込むキャラ造形と空気感、実話なのに小説のようになっている他者描き込みの構成もお見事!

長文を読む機会がない人たちにまで届けることのできる文章だと思います。

漫画家・新井英樹

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